明治00年創業 呉服と小物の店 特選呉服 結城屋

全日本きもの研究会 きもの春秋

7. 着付けと袋帯

きもの春秋

 1月15日の成人式の三日ほど前にお客様より御電話を頂戴した。成人式の振袖を一式買っていただいたお客様である。内容は
「お正月に買った振袖を美容院で御孫さんに着付けてもらったのだけれども、帯の無地の部分が出てしまっておかしい。帯の柄が抜けているとは思わなかったので至急別の帯を見せてほしい」
という苦情とも注文とも付かない電話だった。その振袖と帯の柄は覚えているし、柄が抜けていると云うのはどういう意味か分からずにとりあえず他の振袖用の袋帯数本を抱えてうかがった。

袋帯の柄付は大きく分けて二種類ある。太鼓柄と総柄である。

 太鼓柄は背中の太鼓と腹の部分に柄が有る。脇には柄が出ないので帯を広げてみると太鼓と腹の所にのみ(垂れの部分にも柄の有る場合も有る)柄が有る。(垂れから3尺5寸の所に太鼓柄、さらにその2尺5寸の所に腹の柄が織り込んである。)高級なものになると太鼓の柄が繰り返し織られているものも有るが太鼓以外の部分は全て隠れてしまう。

 総柄の帯は帯全体に柄が織り込まれているが、これには幾つかの種類が有る。帯の手の部分から垂れの部分まで全て柄の有る帯を全通(ぜんつう)と言う。これに対して、全体の六割に柄を織り込んている帯を六通(ろくつう)と呼んでいる。(きもの用語のあいまいさから太鼓柄にたいして六通の帯を全通と呼ぶことも有る。)六通の帯は手の方から約1尺は柄が付いているが、そこから2尺5寸~3尺は柄を付けずに無地のままである。帯を結べば無地の部分は隠れてしまい、外から見れば全通の帯と全く変わらない。外からは見えない部分の柄を省略し安価に作るための工夫である。 その他、四通と呼ばれる帯もあるが現在織られている袋帯のほとんどが六通の帯である。

 さて、お客様に問題の帯を見せてもらったが、何の変哲もない普通の六通の振袖用の袋帯であった。格別柄が少ないわけでもない。持参した帯と比べてみてもおかしいところはない。

 その袋帯に問題のない事は承知してもらったが、それでも確かに無地の部分が出てしまうと言う。手と垂れを逆にして結んでしまったのではないか、とも考えては見たが、着付けのプロがそのような間違いをする訳がない。写真を見せてもらうと確かに帯の後に柄がない。良く見ると帯の結び方が普通とは違っている。

 最近は着付師が帯の結び方を創作している。特に振袖の帯の結び方は文字通り百花繚乱である。原因は帯の結び方にあった。普通の振袖の帯の結び方、いわゆる『ふくらすずめ』であれば六通の帯で無地の部分が外に出て柄が切れることはない。特殊な結び方をする為に、隠れるべき無地の部分が表に出てしまっているのだった。

『ふくらすずめ』にすれば柄が切れることはない、と言う説明にお客様は納得し、二日後の成人式には美容院で「普通の結び方」をしてくれるように頼んだということだった。成人式では帯の柄が切れることもなく満足していただいたが、私にはどうもすっきりとした気持ちにはなれなかった。

 まず第一に柄が切れることが分かっているにもかかわらず何故着付師は変わり結びをしたのか。振袖で成人式に出席した人達を観察したがやはり同じような結び方をして柄が切れている帯をしている人を何人か見かけた。柄が切れている事に気がつかなかったか、あるいは自分の結び方をアピールしたくて柄が切れても構わずに着付けたものだろう。前者という事はまずないと思うが。

 最近の変わり結びは多種多様である。成人式で見かける振袖の帯の結び方は一人一人が違う、と言っても良いくらいである。複雑に襞をとったり、紐で結んだり、飾りを付けたりしている。いろいろな結び方が有ることは良いことであり、われわれの目を楽しませてくれる。しかし、度を越したような変わり結びは目を楽しませるどころか私はハラハラと気をもんでしまう。

 六通という帯の構造を無視して着付けをするという事が何故おこるのか。帯を折り紙のように折り曲げたり紐で堅く縛ってしまうと帯は痛んでしまうという事は考えないのか。私には疑問である。機屋で大切に織られた帯は扱い方を良く注意されたものだった。しわがよらないように、汚れないようにと、帯を朱木へかけるときもいちいち注意された。まして帯を紐で堅く縛ってしまう事など私にとっては我が子の首を締めるにも均しく思われてしまう。

 ウィンドウディスプレイの講習会に行った時にも同じようなことがあった。ディスプレイの専門家と称する人が実演してくれたのだが、袋帯をアコーディオンのように何回も折り曲げ、堅く縛って広げ、扇のようにして、
「このようにすればきれいです。」
と言うのである。そんな事をすればその帯は売りものにならなくなるのに、と思ったのは、その場にいた私だけではなかったようだった。

 着物を着る人が帯にしわがよっても痛んでもいっこうに気にしないとすれば、それは呉服店にとってはむしろありがたいことかもしれない。しかし、帯を作る人(織る人だけではなくそれに携わる多くの人)の苦労を考えると、彼らの苦労が無視されているようで、これも私を寂しい気持ちにさせてしまうのである。

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