明治00年創業 呉服と小物の店 特選呉服 結城屋

全日本きもの研究会 きものQ&A

25.白生地の良し悪しの見分け方を教えてください 

きものQ&A

質問者

 はじめまして、ゆうきさん。

  私のようなアマチュアにも、わかるように説明してください。 おねがいします。

 よく、呉服屋さんが「重い」とか「打ち込みが」とかおっしゃられるのですが、 わたしにはよくわかりません。どこをどのように見れば理解できるのでしょうか。

 小さい子に教えるつもりで、噛んで含めるように教えてくださいませんか。


 

ゆうきくん

 白生地の良し悪しを見分けるのは非常に難しいことだと思います。「良い白生地」という言葉自体が曖昧さを含んでいますので、誤解の無いように説明するつもりですが、わからなければ聞きなおしてください。

 白生地はご存知の通り蚕の繭から採った生糸で作られます。反物一反の長さ は約12m強。その一反の生地に使われる生糸の量は一定ではありません。

 目の粗い篩(ふるい)と目の細かい篩を想像してみてください。目の粗い篩は針金の間隔が広く、目の細かい篩は針金の間隔が狭くなっているでしょう。針金の量は目の細かい篩の方が沢山必要なことはお解かりいただけると思います。
 
 白生地もこれと同じです。「良い白生地」は目が細かく密度が濃くなり、使われる生糸の量が多くなります。そして、目を細かくするためには経糸の本数を増やし、横糸を強く「打ち込む」ことが必要です。従って一反の白生地の重さ はその白生地の良し悪しを計る一つの目安となります。

 白生地の目方は段階的に次のように呼び習わされてきました。  
      通称       十反あたり    一反の重さ   
     カンロク      1貫600匁        600g   
     カンナナ      1貫700匁        637g   
     カンパチ      1貫800匁        675g   
     ニカン       2貫          750g   
     ニカンニヒャク   2貫200匁        825g
 
 以上が白生地の量目に関してですが、私はお客様と生地の量目については余り話したことがありません。

 年配のお客様は「生地が重い、しっかりしている。」 ということを言われるのですが、現在、専門店で扱われている反物はほとんど が700g以上のもので、生地の質としては全く問題が無いと言っても良いからです。
 
 お客様が生地を触られて、「重い」「軽い」と判断されるのですが、そのほと んどは、生地の厚さ、重さではなく織り方によって重く、または軽く感じているようなのです。

 シボの高い鬼ちりめんは触ると非常に重く感じられます。ま た、反対に江戸小紋は細かい柄を型で入れていきますのでシボのの低いさらさ らした生地を使いますので、触った感触は薄く軽く感じられます。

 生地の端 には量目を明示した印が押されていますので両者を比べれば差異のないことが分 かります。

 白生地の量目という見方は絹が貴重であった昔の見方だとも言えそうです。

 昔は貴重な絹でより多くの反物を織る為にカンロクやカンナナといった薄い生 地が作られました。量目をごまかすために糊で増量したという話も聞きます。

 しかし、現代は絹が昔ほど貴重品ではなくなったので、信用できる専門店で扱われる反物は量目の上では、格別吟味するのでなければほとんど問題がないと言ってよいでしょう。

 白生地の重さは定量的に判断できる材料ですので、白生地の良し悪しの判断に使われがちですが、白生地の良し悪しは重さだけで決められるものではありません。

 材料の生糸の品質も白生地の良し悪しに影響することはお解かりいただける と思います。日本では良い絹糸を採るために蚕の品種改良が行われてきました。

 明治時代には輸出品として良質の絹か生産されました。そのなごりは現在でも 「輸出羽二重」という言葉に残っています。

 良い生糸の条件としては細くて丈夫で太さが一定な均質さが求められます。 代表的な品種としては、皇居養蚕所で飼育されている小石丸などがありますが、中国の蚕と掛け合わせた品種も飼われています。

 現在日本の養蚕農家は少なく なっていますが、群馬県や我山形県ではこれらの良質の蚕が飼われています。

 最近は中国初め輸入品が多くなっていますが品質の面では日本産には及ばな いようです。

 良質の生糸で織られた白生地は染めたときにムラが出ず手触りも しなやかです。しかし、白生地見て触って絹糸の蚕種や原産地を特定するのは まず難しいでしょう。

 最近は糸だけでなく、白生地そのものも輸入されるようになりました。白生地の原産地に関しては生地の端に表示することになっていますので良く見れば分かるでしょう。  
 原産地は「原産国 中国」のように表示してあります。但し原産地というの は製織すなわち白生地が織られた国を表すもので生糸の原産国ではありません。
 白生地が輸入され始めた頃は「原産国 ○○」と記された上にシールを貼って原産国名を隠してあるものもありました。最近は無いようですが・・・。
 
 また原産地のほかに「精錬地 日本」と表示してあるものもあります。

 精錬 と言うのは生地の糊を落とす工程のことで製織とは別物です。つまり、織は外 国であっても精錬は日本で行ったという意味なのでしょうが、素人にとっては「全て日本製」と取られかねないので注意が必要です。
 
 輸入白生地はやはり日本製には及ばないでしょう。和牛と輸入牛のようなも のと思ってください。しかし、価格がそれなりに妥当であれば正絹には間違いないので敬遠する必要はないと思いますが、日本製を装って、あるいは原産国を隠して販売する業者もいますので気をつけなければなりません。
 
 量目、使用生糸、原産国に関しては多くが表示してありますし、信頼できる 呉服屋であれば聞けば教えてくれるはずです。

 白生地の価格に影響するもう一つの要素として「B反」というのがあります。 B反というのはA反に対する言葉で、難物を指しています。白生地は製織時に難が出やすく、難物はB反とされ安価で流されます。

 白生地の難は、異物混入、 糸切によるキズなどで、かなり些細なものまで難とされています。どんなに良 い生糸を使っても量目が重くとも傷物は難物、B反とされます。日本での難物に対する嫌悪感は度を越したものがあるように思えます。仕入れに行くとB反 が並んでいることもありますが、「こんなもので!」と思えるような難物も沢山あります。

 私は時折そういった反物や胴裏の難物を仕入れてきます。価格は正反の半額以下です。自分で使うものもありますが、気心の知れたお客様から、 古物の仕立替のときなど「安い物でいいですから」と言われた時は難物を説明した上で薦めると喜んでもらえます。価格は半額以下ですから当然でしょう。

 表生地であれば仕立ての際に難を避けて裁ち、どうしても避けられない場合は 衿の中に入れたり下前に使ったりします。B反はそれ自体難物であることに変りはありませんが、気心のしれた信頼できる呉服屋さんであれば案外良い白生地を安く手にすることもできるでしょう。
 
 価格の目安として、私の店で扱っている山形産小石丸使用の最高級白生地で 7~12万円といったところです。色無地にして8~14万円といったところでしょう。それ以上の物は他の付加価値か何かだと思ってよいでしょう。

 以上の説明で分かりましたでしょうか。分からなければ聞き返してください。

質問者

 ゆうきさん、ほんとうにありがとうございました。

 こんな素人のわたしでも、よくわかりました。 とくに、篩のたとえには、納得するばかりでした。

 そこで篩に思いを寄せていて、不思議の思ったのですが、篩の針金でしたら、まわりに木の枠があるから粗い目にできるでしょうけれど、糸はどういう方法で粗く織っているのでしょうか。不思議です。

 もうひとつ、質問があるのですが、お襦袢のことなのです。よく、デパートの呉服売り場などで勧められるお襦袢は、わたしのような素人目で見ても、まるで羽衣のように薄いのですが、このような薄いものでも大丈夫なのでしょうか。

 質問ばかりして、図々しいですが、よろしくお願いします。  

ゆうきくん

 篩を例に出しましたので、そのイメージがあるのだと思います。そして、薄い生地というのはガーゼのように隙間の開いた生地を連想しておられるのではないでしょうか。

 実際の生地のイメージはこのような(添付画像)ものと思ってください。篩に使う鋼線は硬く弾力がありません。一方絹糸は柔らかく弾力があります。糸同士が緩く組み合っているようでも摩擦力もあり、テニスのバットのように糸が偏ってしまうことはありません。この図がカンパチだとすると、ニカンやニカンニヒャクはもっと「ギュウギュウヅメ」にしたものと思ってください。表生地にするような生地では隙間は無いと思って差し支えありません。
 
 しかし、胴裏に使う羽二重地の中には非常に薄いものもあります。専門店ではまず使われていないと思いますが、指で扱くと糸がよってしまうものもあると仕立て屋さんに聞いたこともあります。

 上述したように薄い生地は薄いなりに織ることができます。襦袢に用いられる生地は表地よりも薄いものです。余りに薄い生地でも困りますが、余りに重い生地でも襦袢としては着難いものです。呉服屋の売り口上に次のようなものがあります。
「これは最高級の襦袢で、表生地にしても良いくらい生地がしっかりしています。」
よく私も使うセリフです。しかし、いくら生地のしっかりした襦袢地でも表生地にはなりません。 襦袢は襦袢地として織られていますので。

 表地にしても胴裏地、襦袢地にしても消費者を無視したような薄い生地も作られていないとは言えません。その辺は消費者のしっかりした目で判断していただきたいと思います。

質問者

 わたくし、しっかりした目には、自信がございません。なにか、目安はないものでしょうか。

 たとえば、引っ張るとか、なにかすればたちどころに、良い生地か悪い生地かわかる方法はないものなのでしょうか。 そのへんのところを教えてください。お願いします。

ゆうきくん

 白生地の見分け方ですが、大変難しいと思います。大きく分けて定量的な判断と感覚的な判断とがあると思います。定量的な判断としては次のような物があります。   
  量目  700g以上であれば一級品といって差し支えないでしょう。    
  産地  浜か丹後か。どちらだから良いということはありませんが、この刻印があればとりあえず日本製のものと思って構いません。   
  製織地  海外で織られた物であれば「中国」や「シンガポール」の名が入っています。    
  検査マーク  浜、丹後それぞれに規格合格品には合格の印が押してあります。

 羽二重については別の「目付け」という規格があります。幅一寸、長さ六丈の重さを匁で表したものです。専門店では12付、14付、16付が使われています。当社では14付を使っています。「胴裏地は何付ですか」と呉服屋さんに聞いてみても良いでしょう。見た目では分からないと思います。

 これらは白生地の端に刻印してありますので容易に視認することができます。しかし、印が薄かったり、色をかけて見え難い場合もあります。 定量的な判断はこのように比較的容易にできますが、あまりに定量的判断に頼ると本物を見失う恐れもあります。

 感覚的な判断はより難しいと思います。より多くの生地を触れて見る他ないかもしれません。胴裏地の羽二重についてはしごいてみればやくざな胴裏は糸が寄ってしまいます。しかし、呉服屋の店頭で生地をしごくわけにもいかないでしょう。

関連記事
参照:「きもの博物館 37. 白生地」
参照:「きもの講座 8. きものの生地について」
参照:「きもの春秋 12.「絹」の価値」
参照:「きもの春秋終論 Ⅵ-16.絹」
参照:「きもの春秋終論 Ⅵ-22.絹の動向」

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