明治00年創業 呉服と小物の店 特選呉服 結城屋

全日本きもの研究会 きもの春秋

13. 和装小物

きもの春秋

 和装小物は、きものを演出する大事な道具である。帯と小物の良さを引き立てるのは、帯締や帯揚、伊達衿などの小物である。

 帯締や帯揚は洋服で言えばアクセサリーという事になるのだろう。金額的に、きものや帯に比べて帯締や帯揚は廉価だけれども、洋装の場合、真珠のネックレスやダイヤモンドの指輪を思い浮かべていただければ分かるように、洋服よりもアクセサリーの方が高価である場合が少なくない。日本ではアクセサリーと云えばイミテーションを連想させられ、それ程重要視されていないようにも思う。

 ヨーロッパの社交界の貴婦人達が身に付けるアクセサリーは1ヶ数百万円から数千万円、時によっては数億円という物も珍しくはない。洋服以上にアクセサリーにお金を掛けているようにも思われる。 

 パリのバンドーム広場には、CHAUMET(ショーメ)、BOUCHERON(ブシュロン)、VANCLEFF&ARPELS(バンクリフ&アペル)、MAUBOUSSIN(モーブッサン)と云った高級宝飾店が軒を並べている。これらの店に並べられている指輪、ネックレス、ブレスレット、イヤリングなどのアクセサリーは世界中から集められた厳選された宝石を熟練工が一つ一つ手間暇をかけて作ったものである。

なぜこのように高価なアクセサリーを作り、女性にもてはやされるのだろうか。

「トータルコーディネイトファッション」という言葉が有る。頭から足の先まで、というのはオーバーかも知れないけれど、スーツ、ブラウスなど誰が着ても似合うようにコーディネイトして、店頭に並べている。自分のセンスに自身のない消費者にとってはまことに都合の良いもので、誰にでもセンスの良いおしゃれができる。

 しかし、見方を変えればちょっと物足りないようにも思う。誰にでも着られると云うことは、裏を返せば個性が無いということにつながってしまう。AさんもBさんも同じスーツに 同じブラウスではファッションの意味が無い。個性が全く埋没してしまうのである。

 しかし、同じスーツでもアクセサリー一つ替えれば全体の印象はたちまち個性的なものになってくる。小さなピンブローチを一つ付けるだけでも全体の印象がガラリと変ってしまう。同じピンブローチでも猫やピエロをモチーフにしたものと、宝石や真珠のものとでは同じスーツでも格が違ったものになる。ましてネックレスやブレスレットなどは個性を強く発散してくれる。

 洋服のアクセサリーは決して脇役ではなくて、洋服と肩を並べる主役であるようにも思えてくる。ヨーロッパの貴婦人達が競って高価な宝飾品を求める意味が分かるような気がする。

 洋服の話になってしまったが、きものの場合も高価な小物が使われていたこともある。鼈甲のかんざしや蒔絵を施した髪飾りや細工物など芸術家や熟練工が作ったものがあったが最近は余り使われない。

 京都の舞子さんが使う小物で「ぽっちり」というのがある。あるとき、京都の舞子さんの衣装について調べるように依頼されて、京都の上七軒に行ったことがあった。

 京都の舞子さんは祇園の舞子さんが有名だけれども、京都には祇園の他に先斗町(ぽんとちょう)、宮川町、上七軒に舞子さんがいる。知り合いの機屋さんに頼んで上七軒の行き付けのお茶屋さんに舞子さんを二人呼んでもらった。

 上七軒というところは不思議なところで、祇園や先斗町のように賑わっている盛り場の雰囲気はなく、ひっそりとしている。ネオンや行灯が赤々と灯っているわけでもなく、お茶屋の店頭には普通の町屋とかわらないような小さな行灯が灯っているだけである。初めて訪れる人(私もそうだった)にとってはそこがほんとうに花街なのかと疑ってしまう。

 二人の舞子さんは彼女らの衣装について快く教えてくれた。「ひきずり」と呼ばれる舞子さん独特のきもの、置屋の紋の織り込まれた丸帯、いずれも立派なもので職業柄
「新調したらいくらぐらいになるのだろう」
と感心してしまった。

 それにもまして舞子さんを特徴づけ高価に思えたのが「ぽっちり」と呼ばれる、その帯留めだった。(きもの用語の曖昧さで帯締めと帯留めが良く混同されるけれども、昔は帯を締める紐、すなわち帯締めのことを帯留めと称していたが、現在は帯を締める紐を帯締め、帯締めを通して使うブローチ状の細工物を帯留めと称して区別している。)

 通常帯留めは三分紐と呼ばれる細い帯締めを使うので、大きさはせいぜい五 程度のものが多い。しかし、舞子さんの使うぽっちりは振袖用の帯締めよりもまだ太い帯締めを使うので直径が10~15センチ(必ずしも丸ではない)位の大きなもので、精巧な細工が施されている。彫金、宝石などで装飾したもので、パリの高級宝飾店の店頭に並べても遜色の無いものに思えた。

 今ぽっちりを新調すれば数百万円にもなるだろうけれども、ほとんどが置屋の先輩の舞子さんの譲りものらしい。

 高価な小物は最近あまり見かけられなくなったけれども、1~2万円程度の帯締めや帯揚げでも十分にきものの良さを引き立たせ個性を発散させてくれる。

 帯締めや帯揚げにもフォーマル用、カジュアル用がある。帯締めで言えば、金糸銀糸の入った高麗の組紐はフォーマル用で、無地物は紬などのカジュアルに良く使われる。洋服のアクセサリーと同じで、帯締め帯揚げ一つで個性が変わってしまう。自分の個性に合った帯締め、帯揚げをそれぞれに選ぶのも、きものを着る楽しみの一つである。

 しかし、最近「帯締めと帯揚げのセット」と言って買いに来る御客様が増えてきた。色見本の生地を持って来て、
「これと同じ色の帯締めと帯揚げを下さい」
と言う。同色の帯締め帯揚げのセットは作られてはいるけれども当店では扱っていない。もし扱っていたとしても、色数は限られ、見本と全く同色というのはまず難しい。

 人間の目は約20万色を見分けられると言う。全ての顧客の要望の許容範囲内で品揃えするとしても数千種類のセットを置かなければならない。

 どのようなきものと帯に合わせるのかを聞き、それに合う帯締めと帯揚げを勧めるけれども、それで客は納得しない。どうしても見本の色と同色の物でなければならないと言う。よくよく話を聞くと、きものを着せてくれる人に同色の帯締め帯揚げを持ってくるように言われて来るらしい。

 帯締めと帯揚げは色が違っても構わないこと、自分の個性に合わせて選ぶべきものと説明しても受け付けない。
「このきものには、この色の帯締めと帯揚げしか合わない」
と思い込まされているらしい。

 これも又、きものが身近でなくなったために、自分で自分に合った小物を見る自信が無くなっているのだろう。結局、
「他を捜してみます」
と、店を出ていってしまうが、果たして希望の色の物が見つかるかどうか、他人ながら心配してしまう。 

 小物は、もっと自由に自分の個性に合わせて選んで見てはどうかと思う。

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