明治00年創業 呉服と小物の店 特選呉服 結城屋

全日本きもの研究会 続続きもの春秋

11. きもののインターネット販売

続続きもの春秋

 インターネットが一般に普及し、WEB取引が日常に行われるようになって久しい。久しいと言っても、本格的に普及したのはここ5年位だろうか。一昨年前に、日本のインターネット人口(登録者数)は5000万人を越えた、という記事があった。今はもっともっと増えているのだろう。それにしても急速な普及である。これからもインターネット上の商取引も増え続けるのだろう。

 WEB上の、いわゆる電子商店で年商数百万、数千万、否数億、数十億円の売上を揚げている店もあると聞く。電子部品や食料品、商品を特定できるような商品が電子商店に馴染みやすく成功例が聞こえてくる。

 我々呉服業界ではどうだろうか。私の店でも2年前に実験的にホームページを立ち上げた。2年前には先発の呉服屋が既にホームページを立ち上げて業界紙でもインターネットに関する記事が紙面を賑わしていた。

 当時の話題の争点は、呉服がインターネット、ホームページでの販売に馴染むのか、というものだった。呉服は商品の性質上、見て、触れて、体に合わせて見なければ販売できないというのが大方の通り相場だった。電子部品のように、○○型番の○○部品というように商品を特定できないし、食品のように、 「思ったほど美味しくはなかった。」 で済まされる価格でもない。また、呉服の販売は店と客との信頼関係で成り立ち、それを創るものは客と面と向って販売する事だと思っている呉服屋も多かった。

 それらは真実で、呉服屋は客と十分なコミュニケーションにより商品を説明する義務を負っているし、信頼関係がなければ、呉服屋のみならずあらゆる商売は成り立たない。
「そんなので呉服の商売ができる訳がないだろう。」
そう頭から決めて掛かった呉服屋さんも多かったように思う。その裏には、自分が扱えない物に対する否定、という面があった事も否めない。(私の父がそうだった。)若手の呉服屋は堂々と電子商店に挑戦し、成功している店も多いと聞く。

 私のホームページでもお蔭さまで2年間でアクセスが10万件を越え、販売も徐々にではあるが増えている。既にWEB上で何度も御買い上げいただいたお客様も何人もいらっしゃる。中には電話で言葉を交わした方もいるけれども、ほとんどのお客様とは会ってもいないし、話したこともない。メールを何度も交わしながら慎重に商談を進めているけれども、そのお客様がどんな人なのか、何歳なのかも分からない。しかし、今までトラブルらしいトラブルもなく、納めた商品に御満足頂いているものと自負している。

 私は他の呉服屋同様商売に信用は必須の物と考えている。そして、それがお客様とのコミュニケーションを通して生まれる事も知っている。そういう立場からすれば、WEB上での取引は異様にも思われる。まだインターネットで商売をしたことのない呉服屋さんはそう思うだろう。  しかし、私は最近、インターネットでの呉服の販売には、今呉服業界で失われた最も大切な商売の要素が含まれているように思えてきた。
 
  商売の目的は、・・・もちろん金儲けだけれども・・・使命は、と言えば、
「お客様により良い商品をより安く、必要な時に供給する。」
ものだと思っている。そして、
「プロ意識を持って、自店で扱う商品はお客様が納得していただける知識を持って」
売るのが商売人である。

 しかし、どんなに良い商品を安く豊富に持って並べていても商品は売れない。商品を売るには営業活動が必要であり、宣伝もしなくてはならない。良い商品と営業が両輪となって行うのが商売である。

 しかし、今の呉服業界では商品がないがしろにされ、営業力ばかりで商売をしている。(と私には思える。)

 商品の良し悪し、原価率などはないがしろにされ、過度な勧誘や接待、演出で消費者が翻弄させられている。あたかも両輪の片方は、ほぼ消滅して一輪走行しているが如くである。呉服を消費者に買っていただけるかどうか(売れるかどうか)は商品そのものではなく、いかに消費者の気を引くかということになってしまったらしい。

 随分前の事だけれども、私の店に出入りする問屋さんに、
「結城屋さんはサービスが悪いと言っていましたよ。」
と言われた。私は決してサービスが悪くはないと思っているが、良く聞くと、
「他の呉服屋さんは京都に連れて行ってくれたり、温泉に招待してくれるけれども、結城屋さんは招待してくれないから。」
と言う事だった。

 今や旅行への招待販売など常識になっているようにも思える。京都や高級料亭での招待の経費は商品の価格に上乗せされているのは誰が考えても道理である。商品はないがしろにされているのである。

 その事を旅行販売を企画する問屋に話した。
「招待の企画で高い商品を消費者に買わせるのではなく、経費を掛けずに安い(妥当な)価格で卸してくれた方が消費者の為になりますよ。」
 そう言うと、問屋の返事は、
「いや、消費者はもうそんな事(価格が上乗せされている事)は御存知ですよ。招待旅行に参加されるお客さんは旅行や招待が楽しみで呉服を買うのですよ。そうでもしなければ、呉服は売れませんよ。」
 そんな問屋の言葉を聞くと私は、
「呉服の消費者もなめられたものだなぁ。」
と思う。既に一部の問屋、呉服屋は正業を離れ企画屋になっている。

 そういった呉服業界の有り様を見ると、電子商取引は過度な営業の這い入る隙のない商売に思えて来る。
 メールでのやり取りは商品の紹介に全精力を傾けなければならない。直接商品をお客様にお目に掛けられないだけ、色、柄、風合い、その他の説明は細心の注意を要する。価格のごまかしは許されない。WEBでの買い物に慣れている消費者であれば価格の比較など容易な事。

 私はWEBで注文を頂戴すると、人一倍緊張する。恥ずかしい話だけれども、私も小売をやって20年。この間、仕立の寸法を間違えた事があった。私の勘違いとお客様とのコミュニケーション不足のせいだったけれども、その時はお客様に叱られ、走って商品を仕立て屋に持ち込み直して納めた。幸い着るのには間に合ったが、WEBでの販売となるとそれでは済まない。仕立に欠陥があれば二度と注文はもらえないだろう。「付き合いに免じて」という言葉は通じない。 「良い商品を安価に」供給するという商売の原則が具現化できるのは呉服業界においては案外WEB取引以外にはないかもしれない。

 しかし、WEB取引には問題もある。

 誰もが指摘するように、画像のみの取引ではきものの色、柄、風合いが正確には伝わらない。それを克服するために私は四苦八苦しあの手この手を使っているが100%店頭で販売するようにはいかない。

 発信する側(売る側)が善意で販売する分には100%とは言わなくとも、お客様に理解が得られる程度にはカバーできると思っている。しかし、発信する側が悪意を持ったならば、電子商店は凶器となる可能性も含んでいる。

 代金を掠め取る、などは犯罪で論外だけれども、難物を正反と偽ったり、プリント物を手描きに見せかけ二重価格でごまかすなど、少し考えただけでも悪魔の囁きが聞こえてきそうな気がする。とりわけ消費者には価格判断が難しくなっている呉服である。受け取る側が冷静に判断しなければ落とし穴に落ちる可能性は十分にある。

 お客様と顔を会わせずに期待を裏切らず、商品をお届けする。電子商店と言えども信用が第一である事にはかわりがない。顔の見えぬお客様と一歩一歩信頼関係を築いていかなければと思う。

 大変難しい事だけれども、現在の呉服業界に渇を入れることができるかもしれない。

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