明治00年創業 呉服と小物の店 特選呉服 結城屋

全日本きもの研究会 ゆうきくんの言いたい放題

Ⅶ-69 棚卸(その2)

ゆうきくんの言いたい放題

 近年の棚卸は30年前に比べて格段に楽になった。昔は朝早く(7時頃から)棚卸を始めて夕方までかかっていた。時にはその日に終わらずに翌日の朝に残りの商品を数える事もあった。しかし、昨年の棚卸では、余り動かない商品を数日前から数え始め、棚卸当日には半分くらいの品勘定は終わっている。当日昼過ぎには品勘定が終わり、掃除をして夕方には店を開けていた。

 事前に品勘定が終わった商品が売れれば棚から外す、と言った操作が必要であるが、その必要は非常に少ない。商品の回転が悪くなっている故にできる事である。事前に品勘定を始める事で、棚卸当日は実に楽である。

 そしてそれよりも何よりも勘定する商品数が激減している事である。

 昔は呉服商品のありとあらゆるアイテムを豊富に取り揃えていた。振袖から留袖、訪問着、小紋、紬。帯では袋帯、名古屋帯、染帯、半巾帯、今では見られない六寸帯もあった。夏物も同じように揃えていた。夏になると、店の棚の商品を冬物から夏物に入れ替えていた程である。

 今でも私の店ではありとあらゆるアイテムを揃えているつもりである。しかし、アイテムによってはその数が激減している。

 昔は、黒留袖は葛籠箱二つにぎっしりとしまってあった。枚数にすれば15~20枚位だろうか。20枚と言うととても多いように思えるが、当時の黒留袖の需要を考えるとそう多くはない。当時留袖を購入する動機と言えば、一に嫁入りである。年頃にすれば二十代。嫁入り道具として留袖を購入していた。柄はもちろん派手である。そして二には、息子や娘の婚礼のための留袖である。当時の年頃は五十前後。嫁入りで持参した留袖では派手過ぎて、年代に合った留袖を購入していた。そして、三には孫の婚礼である。これは相当に地味な留袖であり、実際にそう言った需要は確かにあった。

 これら三世代の需要に応える為には、それぞれ在庫を相当数持っていなければならない。在庫が15枚とすると、一世代分5枚である。そして柄の傾向も様々である。加賀友禅系統の柄。京友禅系統の柄。花柄、山水柄等々。人によって「花柄が嫌い」と言う人が結構多い。黒留袖が回転の良い時代には5枚程度の選択肢がなければお客様にご納得いただけなかった。

 それでも当時黒留袖は需要があったので商品は回転していた。京都に仕入れに行くたびに問屋で留袖を仕入れていた。出張の度に「どんな留袖に逢えるのか」と言う期待、楽しみもあった。

 しかし、近年黒留袖の需要が激減している。結婚式の形体の変化、伝統意識の希薄化があり、それに伴った私の店の黒留袖の在庫も激減している。在庫の激減に留まらず、黒留袖を染める染屋が激減している。

 先日黒留袖の注文があったので問屋に問い合わせたが、
「今、留袖を染める染屋がないんですよ」
と言う返事だった。

                                        つづく

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