明治00年創業 呉服と小物の店 特選呉服 結城屋

全日本きもの研究会 ゆうきくんの言いたい放題

Ⅶ-75 大雪・きもの(その3)

ゆうきくんの言いたい放題

 雪下駄は昔良く履かれていた。私が子供の頃、雪下駄を履いて歩く人の姿は良く見かけた。しかし、最近は履かれなくなり、店頭に並べても売れない。その理由は、と言うと。

 下駄はカジュアルな履物である。浴衣に下駄を履くように、普段着の履物である。しかし、最近着物を着るシーンはフォーマルが圧倒的に多く、普段に着物、それも雪の中を着物で歩く人は見かけなくなった。

 本来下駄は雪には強い履物である。歯が付いているので、2~3cm程度の雪であれば平気で歩ける。雪が深く圧雪するような処では、歯の底に鋲がを打った下駄を履いた。圧雪した道でも滑らずに歩く人ができる。今でも下駄屋さんに注文すれば仕入れる事はできるが、ほとんど需要がない。

 鋲の付いた雪下駄で雪道を歩くのは問題無いが、現在の道路は殆ど舗装されている。舗装道路がなかった昔は砂利道や土の道路だったので、圧雪が薄くなっても、雪が無くても歩く事ができた。しかし、圧雪が途切れると鋲のついた雪下駄でアスファルト舗装の道路は歩けない。余程根雪の深い地方でなければお呼びが掛からない。尤も雪深い街ほど除雪排雪が完璧に行われているので、鋲を打った下駄は出番がないのかもしれない。

 雪下駄には鋲ではなく三角錐の硬質ゴムで滑り止めを付けた物もある。丁度スパイクタイヤとスタッドレスタイヤの違いである。しかし、硬質ゴムでもアスファルトの上を歩けば擦り減って直ぐに滑り止めの役を果たさなくなってしまう。

 下駄と言えば、今は歯下駄が非常に少ない。浴衣の下駄などは歯の無い右近下駄(草履のような)が主流である。この右近下駄でも雪下駄はある。雪草履と同じように褄を付けて底にゴムを張った物である。ただ、深い雪では余り役に立たない。

 雪草履にとても雪下駄にしても昔の人達は雪が降った時に履いていたのは間違いない。しかし、深い雪を想定すれば、果たして雪草履や雪下駄で対応できたのか疑問に思える。

 現代、雪の深い地方では長靴が一番重宝である。雪の深い地方の人に、
「雪の深い時には何を履きますか。」
と聞いたところ、
「長靴です」
と言う答えだった。

 確かにゴムの長靴は雪には最強である。しかし、「昔は・・・。」と考えるとどうしていたのだろうか。

 藁で編んだ雪靴と言うのもある。長靴の様に足がすっぽりと覆われて、深い雪にも対応できそうであるが、所詮藁を編んだものなので、長時間歩けばどうなのだろうか。

 着物姿、特に今日のフォーマルなきもの姿に長靴や雪靴はピンとこない。はて、昔はどうしていたのだろうか、と思ってしまう。そして、雪の時期に着物を着るのは控えるべきなのか、とも思ってしまうかもしれない。

 しかし、考えて見ると洋服の場合はどうなのだろうか。確かに今は洒落た雪靴が出ている。素材も研究され、防水加工も発達して雪道でもお洒落に歩く事ができる。

 しかし、それは現代の話で、雪が深い時に昔は何を履いたのだろうか。ゴムの長靴などなかった。

 極北の地では、イヌイットがアザラシやオットセイの皮で靴を作るらしいが、そのようなものが巷に出回っていたとは思えない。

 洋服の世界でもやはり雪に対して完ぺきではなく、現代の感覚とは違った対応ではなかっただろうか。そう言う意味では、雪の時には雪草履や雪下駄を履いて気を付けながら歩くのが着物に相応しいのかもしれない。

                                            つづく

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