明治00年創業 呉服と小物の店 特選呉服 結城屋

全日本きもの研究会 きもの博物館

61.平織麻襦袢(ひらおりあさじゅばん)

きもの博物館

 着物を着るのに襦袢は不可欠である。夏場浴衣を着る時には襦袢を着ないけれども、紬であれ訪問着であれ、襦袢は必要不可欠である。初めて着物を仕立てる人は、必ず着物と一緒に襦袢を仕立てる。

 襦袢は洋装に例えると「下着」と言われるけれども、洋装の下着とはまた別な機能がある。洋服の下着は洋服を着てしまえば外からは全く見えない。洋服で「下着が見える」と言われると慌てて居ずまいを正そうとする。

 襦袢は、衿に「半襟」が付いていて、この半襟は見えるので、刺繍の半襟や色物の半襟を付けておしゃれするのである。襦袢は下着の機能と共に着物と一体になった装いを演出している。

 今は正絹の襦袢が主流で呉服店によっては正絹の襦袢しか置いていない店もある。しかし、襦袢は下着としての機能も求められるために昔は色々な素材があった。「昔」と言ってしまったが、私の店では今でも正絹以外の襦袢も置いてある。

 襦袢には下着としての機能も求められるために季節によっても様々な素材がある。そして、晴の場、普段着それぞれに対応した襦袢がある。

 晴れ着の襦袢は正絹である。留袖や喪服には白襦袢。その他はピンクをはじめ薄い色が多い。紬を普段に着る人は、汚れが目立たないように色の濃い襦袢を着る事が多い。

 昔は普段着の襦袢と言えばメリンスだった。私は今もメリンスの襦袢を着る事が多い。メリンスのメリットは、汚れに対する鷹揚さである。絹の襦袢を着る人は常に汚れを気に無くてはならないが、メリンスの襦袢はそれ程神経質に汚れを着にせずに着る事ができる。

 汚れと言えば、夏場の汗対策には着物を着る人は誰しも苦労する。夏とは言わずに現代は地球温暖化の影響か、四月ころから暑い日がある。昔は四月と言えばもっと寒かったように思えるのだけれども。その暑さに悩まされている人達が多い。

 きものの世界では季節による衣替えがある。袷→単衣→薄物、と言うように。そして、それは厳格に守らなければならないとされている。特に伝統を重んずる人達は尚更厳格である。

 お茶をなさっているお客様の中には、五月の暑い日に袷の着物を着て、襦袢が汗びっしょりになったと洗濯に持ち込んでくる方もいらっしゃる。

 正絹の襦袢を度々洗濯するのもたまらない。自分で洗濯できるようにと化繊の襦袢を着る人もいるけれども、化繊の襦袢は暑さに拍車を掛ける。正絹も化繊も暑い日には不向きである。

 夏の長襦袢としてお勧めしているのが麻襦袢である。麻は通気性が良く、汗を吸い夏場の襦袢としては持って来いである。

 その麻襦袢は、小千谷と近江が主産地である。私の店では主に小千谷の麻襦袢を扱っている。比べれば小千谷の方が値段は高い。小千谷は一巾で織るけれども、近江は倍幅で織って半分に裁つ為に、その分安価にできる。見た目は同じようだけど、実際に着たお客様に聞くと、小千谷の方が良いと言う。機の幅が狭い分打ち込みが強くなるからかもしれない。

 私の店では小千谷の紋紗麻襦袢を長い間扱っていた。透ける柄と夏らしさが評判だったが、数年前に生産を中止してしまった。それ以来、麻絽と縞柄、近江の紋紗襦袢を扱っている。

 麻襦袢を仕立てる時には、背縫いと脇縫いをミシンで仕上げる。そうすれば、洗濯機にも耐えられるので、夏場は毎日のように洗濯ができる。軽く脱水機で絞った後、延ばしてきものハンガーに掛ければ、次の朝には乾いている。夏場毎日きものを着る人にとってはこの上なく便利である。

「麻はシワになって」と敬遠する人がいる。しかし、「シワになり易い麻」は「シワが取れやすい麻」でもある。生渇きの襦袢を丁寧に延ばして干せばシワはきれいに伸びる。着ていてシワが出来ても霧吹きして延ばせばシワは消える。

 そういう訳で麻襦袢は多くのお客様に重宝がられてきた。もちろん夏場の襦袢としてである。

 しかし、最近麻襦袢の別な着方を勧めている。日本は四季の区別があり、着物も四季の移り変わりと共に衣替えする。袷→単衣→薄物と言うように、着物を着る本人もさることながら、他人の着物姿を見て四季の移ろいを感じる。これは日本の情緒である。

紋紗麻襦袢
平織麻襦袢(ピンク)

 衣替えの時期は暦の上で決まっている。袷の時期には袷を、単衣の時期には単衣を着る事になっている。普段着はさて置き、四季やお茶の世界では結構厳格な対応が求められている。

 しかし、最近は、地球温暖化のせいなのか、何なのか分からないが、暑い日が多い。四月、年によっては三月でも暑い日がある。袷の時期である三月、四月、五月に汗だくになって袷の着物を着ている人を見かける。

「さぞ、着物の手入れも大変だけれども、何よりも本人は苦痛だろうな。」
と思って見ている。
私は、式以外の普段は、暑ければ四月から麻襦袢を着ている。五月にはほとんど麻襦袢である。暑い日に涼しい着物を着るのは当たり前の話だけれども、そうは行かない立場の人も多い。

 単衣の時期に麻の襦袢を着るのは以前から提案している。暑いのを我慢するよりも見えない麻襦袢を着ればより快適に着物を着る事ができる。外から見える半襟は、塩瀬でも絽でも付け替える事ができる。

 しかし、単衣は良いが、袷の時期に絽や紋紗の襦袢を着れば袖口や振りから薄物の襦袢見えてしまう。目立たないとは言え、袷の着物から絽や紗の襦袢が覗くのは気になる。

 麻襦袢には、絽や紋紗の他に平織がある。平織の麻襦袢は、薄くて良く見れば透けるけれども、一目でわかる絽目や紋紗は見えない。色物であれば、一目で夏用の麻襦袢と分かる人はいない。まして色物であれば、余程の人でなければ麻襦袢とは気づかない。

平織麻襦袢(薄色)
平織麻襦袢(濃色)

 暦の上では十月は袷の時期である。しきたりに従って袷を着たいところだけれども、最近は暑い日が多い。また、ホテルなど室内は暖房が完備されて暑い。平織の麻襦袢を無双仕立てにして着る事をお勧めしたい。

しきたりに逆らわず、快適に過ごすために、着物は袷、襦袢は麻の組み合わせは今日の着物事情にはぴったりだと思う。いちど試してみてはいかがでしょうか。

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