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全日本きもの研究会 きもの博物館

25. 経錦(たてにしき)

きもの博物館

 経錦は「たてにしき」又は「けいきん」とも呼ばれ、中国では漢代以来伝統的な織物として織られてきた。    

 錦と呼ばれる絹織物は、先染された色糸によって柄が織り出されていく。織物というのは御存じの通り、経糸(たていと)と緯糸(よこいと)によって織られている。地も文様も経の色糸で織り出すのが経錦、緯糸で織り出すのが緯錦(「よこにしき」または「いきん」)である。経錦の歴史は古く、正倉院裂の中にも見出されるけれども、その後すたれて緯錦にとってかわられる。

 経糸で色柄を織り出すには経糸に色糸を使わなければならない。織り出そうとする色が三色ならば三種類の、四色ならば四種類の色糸が必要である。一般には三重経と言われ、三色三本の糸を一組として経糸に使う。織り出そうとする色糸を表に出しながら横糸を入れていく。その為に経糸には細い糸(通常の三分の一の太さ)を使わなくてはならない。

 他にも四重経、六重経と言われる経錦もあるが、これらを織るには大変高度な技術と手間が必要なので経錦と呼ばれる織物のほとんどは三重経である。

 緯錦に比べれば、色糸の数も制限され、細い糸を使うために緯打ちも容易ではない。緯錦であれば、手間はかかっても緯糸の色を変えていく事によって何色でも色糸を使うことができる。又、経糸は隠れてしまうので糸の整経(経糸を機に掛けること)に気を使うこともない。

 そんな訳で経錦は次第にすたれて緯錦にとってかわられてしまった。現在の帯地は緯錦に属するものがほとんどである。  しかし何故、織り方の難しい経錦が緯錦よりも先に普及したのか私には分からない。やはり経錦には緯錦にはない魅力があるのだろう。

 歴史に埋没せんとする経錦を現代に蘇らせた人がいる。西陣の北村武資氏である。氏は重要無形文化財保持者、いわゆる人間国宝である。

 夾纈染や経錦など正倉院裂の復元に取り組んでいる人はたくさんいる。そして、それらの染や織の原理は、聞けば簡単に思えるのだけれども実際にやるとなると難しい。夾纈や経錦の原理は、
「なんだ簡単なことじゃないか。その程度の事で人間国宝の称号が、・・・。」
と思う人も少なくはないかも知れない。しかし、細い糸を三本束ねて整経していくことさえ並大抵の事ではない。職人技の世界なのである。

 北村氏の織った経錦は、きめの細い柔らかな織が特徴である。色糸は三色しか使えないので華やかな、あるいは複雑で豪華な織柄を出すことはできないけれども、単純な上品さとでも言える作風である。そして、帯の本来の使命である「帯を締める」ということに関しては絶品である。その柔らかさは緯錦では得られない締め心地だと言う。(私は袋帯を締めたことがないので実感として話すことはできないが)帯を締めてみれば何故古人が経錦にこだわったのかが分かるのかも知れない。

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