全日本きもの研究会 きもの博物館
14. 江戸小紋『毛萬筋』
きもの博物館
江戸小紋はきものを着る者の箪笥に一枚はある着物である。江戸小紋はもともと江戸城に登城する藩士が着た裃の柄を着物にしたものである。その代表格は鮫小紋である。藩ごとに裃の柄が決められ、他の藩の者がその柄を用いることはできなかった。 ちなみに鮫小紋は紀州藩である。「鮫」の他に「通し」「行儀」「胡麻」など沢山の柄があり、それらは伊勢型と呼ばれる型染で作られる。柄が細いので型を作るのも大変なら、染めるのも大変である。型を作るのも染めるのも高度な職人芸によって作られるのである。 |
「萬筋」と呼ばれる江戸小紋がある。呼んで字の如く縦縞の江戸小紋である。「萬」は「沢山」をあらわし、細い縦縞の柄である。どのくらい細いのかと言えば一寸幅に十五~二十五本の線を引く。ただ線を引くだけであればできそうであるが、等間隔に、そして型継ぎをしても線が乱れないようにまっすぐに線を引かなければならない。そしてその線は伊勢型(渋紙を張り合わせた紙)に彫られているのである。
その萬筋の最高峰が毛萬筋(みじん縞とも言う)である。毛萬筋は一寸幅に実に三十一本の線が彫られている。余りの細さに少し離れてみれば縞柄とは思えない程である。毛萬筋の型を造るのは非常に単純で根気の職人技である。その毛萬筋の型を彫る職人の児玉博氏が平成4年1月1日に亡くなり毛萬筋之型を彫れる職人はいなくなってしまった。
しかし、氏が亡き後も型がある限り染職人によって毛萬筋は染めることができる。そんな訳で数年前、型がある内にと言うわけで、児玉博氏の毛萬筋の展示会を行なった事があった。
「型が壊れてしまえば染められなくなりますから。」
という染屋さんの言葉にびくびくしながら注文を取った。
そして今、型は無くなり、もう染める事はできなくなってしまった。実は型は取ってあるのだけれども、それは文化財として使うことはできないという。
先日染屋に言って毛萬筋小紋の話をしたら、まだわずかに残っていると言う。別染めの注文は受けられないけれども、在庫として染めていたのが数点あるというので借りてきた。毛萬筋に出会える最後のチャンスかもしれない
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