明治00年創業 呉服と小物の店 特選呉服 結城屋

全日本きもの研究会 きもの春秋終論

Ⅵ.きものつれづれ 20.蓮布、藕絲 (ぐーし) 織 、その後

きもの春秋終論

 平成18年2月に「結城屋きもの博物館」にて「55. 蓮布、藕絲 (ぐーし) 織」として蓮布を紹介した。かなり多くの人に読んでいただいたらしく、その後随分問い合わせを頂戴した。そして、何人かの方に蓮帯を買っていただいた。

 しかし、その後蓮帯は入荷できなくなってしまった。

 ミャンマーで蓮布を作っている法衣屋さんとはコンタクトを採っているが、法衣にする蓮布はあるけれども帯にする蓮布は入らないと言う。その後も何人かの方から蓮帯を購入したいと問い合わせを受けたけれども、残念ながら全て断らざるを得なかった。

 蓮帯が入荷できない理由は次の様らしい。

 最初にミャンマーで生産を開始した当時は、鎖国が解かれたばかりで、昔ながらの技術を素朴に伝えていた人達が多くいた。その彼らにとって稼げる仕事はありがたかっただろうし、技術指導の下にこつこつと蓮糸を作っていた。

 しかし、この十年の間、ミャンマーを取り巻く環境は大きく変化した。国を開き開発、経済成長が始まる。政権も変わり、国民にとって様々な意味で多くの変化を経験したのだろう。急激な経済成長は人々の心も変えてしまう。

 ミャンマーは10年位前から5~8%の経済成長を続けている。仮に6.5%の成長を10年間続いたとすると10年前の1.88倍である。新興国にありがちな事だが、経済成長によって貧富の差が極端に開き、富むものは1.88倍どころではなく途轍もない富を得ているのだろう。

 それまでは貧富の差も感じずにやってきた人たちが経済成長に接し、富裕層が身近に生まれる中で、こつこつと蓮糸を作ってきた人たちの心にも変化が起きたであろうことは想像に難くない。法衣屋さんの話である。

「ミャンマーだけでなくカンボジアあたりでも蓮布の生産が行われ、他の糸を混ぜたものや、質の悪いものが出回っているんです。」

 蓮糸が金になると思えば誰でも蓮糸を作って儲けたいと思う。人の当然の心理である。そして、より効率よく蓮糸を作って儲けを増やしたいと思う。その結果、手間のかかる仕事は敬遠される。より良い物を作るよりも、より儲かる物を作ろうとする。伝統文化においては、経済成長と品質は相反する関係を創る事があるようだ。

 私の想像の多分に入っているが、そんな訳で蓮帯ができるような蓮糸を作っていた人達も離散し、あるいは商売替えをしたりして思うような技術の集約ができなくなったようだ。

 そんな時、つい先日その法衣屋さんが突然私の店にやってきた。抱えてきたのは麻の織物だった。

 広げて見せてくれたのは中国で作らせた手績みの麻織物だった。手績みの麻織物と言えば越後上布がある。その織物は越後上布とは別物だったが、手作り感のある織物だった。

 さて、麻織物の話はさて置いて、蓮帯の話をした。
「今でも蓮帯の問い合わせがあるのですが、やはりもう作れないのですか。」
そう聞くと、法衣屋さんは、
「いや、実は・・・。」
と話し始めた。

 帯にできる蓮糸は途絶えてしまったけれども、再開に向けて立て直しているとの事だった。市場が混乱している時に商売はやりずらいものである。あちらで似たような商品ができたと思えば、こちらでまがい物が登場する、といった状況では相場も安定せず、商品価値も正当に評価されにくい。しかし、そのような混とんとした状況は既に過ぎたのかもしれない。

「今、体制を立て直しています。息子を現地にやって生産体制を整えています。蓮布ももう出来て着ています。」

 そう言って、包みから蓮布を出して見せてくれた。法衣用の生地だったが、帯用も生産を始めると言う。商品が出来次第見せてくれるように言った。

 今度出来てくる蓮帯がどのような出来なのか、価格はいくらなのかまだ分からないが、良い蓮帯ができてくるように願っている。

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