明治00年創業 呉服と小物の店 特選呉服 結城屋

全日本きもの研究会 きもの春秋終論

Ⅵ.きものつれづれ 48 コロナ禍の影響

きもの春秋終論

 新型コロナの流行による経済的影響はあらゆる産業に及んでいる。中には、巣ごもり需要でカレーやレトルト食品など、またオンライン学習やそのハードなど、またワクチン開発の薬品メーカーなど一部には好況を呈している分野もあるけれども、長い目で見れば健全な活況とは言えない。ほとんどの産業がコロナ禍の影響を受けて業績が著しく落ちているといって間違いない。

 重厚長大産業の決算を見ても我々零細企業からすれば天文学的な赤字を計上している企業が目白押しである。自動車産業もほとんど赤字転落しているが、トヨタ自動車は一人黒字を維持すると言う。企業経営、商売の在り方においてお手本となる企業である。

 さて、一部の産業企業を除いてほとんど全てがコロナの災禍に翻弄されている。こんな時には、
「他も皆打撃を受けているのだから、それ程焦る必要はない。その内コロナが去れば底上げされて皆元に戻るだろう。」
等と楽観的な気持にもなってしまいがちなのだが、冷静に考えれば自分の足元が一番危ない事に気づかされる。災禍は最も脆弱な処に襲い掛かる。河が氾濫するのは最も脆弱な堤からである。日本の産業の最も脆弱な部分とはどこか。

 先日テレビで、日本で一番大きな和楽器のメーカーが廃業すると言う話題あった。三味線の生産数が日本一である。三味線の生産数は、1970年には14,500丁だったものが、2017年には1,200丁だったと言う。50年の間に1/10以下に減ってしまった。そしてコロナの影響で二カ月間注文がなく、廃業を決心したと言う。

 生産数が50年掛けて1/10に減る過程では、血のにじむ苦労で何とか伝統産業を支えてきたのだろう。しかし、突然起こった竜巻の様に、コロナ禍はそのメーカーを廃業に押しやってしまった。売上の減少による赤字がどうのこうのと言う時間も与えずに吹き飛ばされてしまった。

 伝統産業はおしなべて衰退の道をたどっている。伝統と現代の嗜好を巧みに合わせて新しい産業を創造し成長している例もあるが、昔からの伝統を頑なに守ろうとすると非常に厳しい物がある。自ずと産業の最も脆弱な縁へと追いやられる。

 今回のコロナ禍は最も脆弱な産業である伝統産業に少なからず、いや多大な影響を与えるのは必至である。そういう意味で、我々の業界にもコロナ禍は大きな影響を及ぼす。

 呉服業界は三味線の生産数と同じで縮小に縮小を重ねて来た。今残っているメーカーは必死の想いでここまで頑張ってきたのだろう。しかし、体力もすり減らしたところにコロナ禍が押しよせて来た。呉服の伝統産業も日本の産業に中では最も脆弱な部分である。

 そんな矢先である。問屋から連絡があった。
「絽の裏襟を作っているメーカーがやめるって言うんです。うちではもう絽の裏襟は扱えなくなります。今でしたらまだ在庫がありますので供給できますがいかがしましょう。」

 絽の裏襟は夏物の着物の仕立てには必需品である。バチ衿でなければ一着に一枚必要である。昔は夏物も数が売れていたので裏襟はロールで購入していた。一反分の裏襟を裁って使用する。さすがに一シーズンで一反分は使わなかったが、毎年のように買っていた。

 しかし、近年夏物も数が出なくなったために、一枚ずつ裁ってビニール袋に入っている製品を一度に五枚から十枚位購入していた。私の店ではそれで困ることはなかったが、メーカーにしてみれば数的に激減である。この度メーカーが廃業するのは、必ずしもコロナのせいではないかもしれない。しかし、少なからず影響があった事は確かである。

 裏襟のメーカーと言うのは、西陣の帯の織屋や染物屋のような華やかさはない。極地味なメーカーである。と言っても、着物を仕立てるのに裏襟は必需品である。そう言った余り目立たない、外の目には触れないが大切なメーカーをコロナは直撃する。

 裏襟のメーカーは一つの例に過ぎないが、呉服業界に限らず小さいながらその業界にとっては無くてはならない大事な業者は大きな打撃を受けているだろう。ほんの些細な部品を造る零細なメーカーは、どんなに大切な部品を造ろうとも、その規模故に大きな影響は免れない。

 とりわけ伝統産業に限って言えば、多くが零細な事業所が多いだろう。伝統産業の多くは、生活必需品とは離れたものが多く真っ先に影響を受けているだろう。

 かく言う私の店も大きな影響を受けている。コロナ禍の中できものを作ろうと言う人は影を潜めている。きものが売れなければ私の店は冬眠状態となり、問屋からの仕入れもストップしている。

 最近、京都や東京から顔を出してくれる問屋さんもあるけれども、
「いや~、今の時期は・・・。」
と言って帰ってもらっている。

 コロナが明けて、元の状態に戻るのが何時かは分からない。しかし、戻ったとしても、東京の日本橋や京都の室町に行った時、どのような状況になっているのだろう。

 今は問屋さんの姿は見えるが、その先のメーカーの姿が全く見えない。裏襟のメーカーの様に廃業しているメーカーも多数あるだろう。伝統産業だけに、一度なくなれば二度と起こせない仕事も多い。

 コロナ禍の影響がどれほどのものなのか、開けてみなければ分からない。その時が恐ろしく思えるのである。 

着物のことならなんでもお問い合わせください。

line

TEL.023-623-0466

営業時間/10:00~19:00 定休日/第2、第4木曜日

メールでのお問い合わせはこちら