明治00年創業 呉服と小物の店 特選呉服 結城屋

全日本きもの研究会 きもの春秋終論

Ⅵ.きものつれづれ 25.振袖・成人式の行方

きもの春秋終論

 6月13日に成人年齢を20歳から18歳に引き下げる改正法案が成立した、と業界ではもっぱら話題になっている。以前から、成人年齢の引き下げは話題になっており、成人式と振袖への影響が語られていた。

 既に周知の事と思うが、成人年齢が18歳に引き下げられた場合、業界として次のような事が懸念されている。

①成人式の対象は18歳になるのか。
18歳は高校三年生にあたり、受験生にとっては1月の成人式に出席する人が減るのではないか。

②同法が施行される平成22年4月1日以降、即ち平成23年に行われる成人式は、18,19,20歳の各年代が一度に成人式が行われる。果たしてその対応はできるのか。

③振袖は果たしてどうなるのか。
成人式への出席者が減り、販売に影響するのではないか。成人式を夏に行う市町村が増えて、販売に影響するのではないか。

 以上の懸念が業界では絶えない。

①は、当たり前に考えればその通りになるだろう。受験を目の前にした高校三年生が、振袖を着て1月の成人式に出席する人は減りこそすれ、増える事はないだろう。
②も、その通り混乱するかもしれない。大きな問題ではあるが、過渡的な問題なので、それ以上に、その後どうなるのかが問題である。
③成人式に出席する人数が減れば、そのまま振袖の販売に影響するのは必至である。成人式を出席しやすい夏場(盆等)に行うとすれば、これもまた季節柄振袖を着る人の数は激減するだろう。

 このままでは政令により呉服業界は大打撃を受けそうである。呉服業界は、政府に抗議するだろうか、あるいは抗議とまでは行かなくても、何らかの是正策を要求するかもしれない。あたかも自分たちは政令変更の犠牲者であるかのように。

 呉服業界に影響があるのは事実かもしれないが、そうなってしまった原因は呉服業界側にもあると反省しなければならない。

 呉服業界は、振袖をどのように扱ってきただろうか。

 振袖は、言うまでもなく若い女性の第一礼装である。着物の中でも最も華やかで美しく、日本を代表する衣装である。外国人の振袖に対する興味は唯ならぬものがある。

 もともと振袖を仕立てるのは、子や孫に美しく着飾ってほしいと思う親心のなせる業だった。親であれば、誰しも娘や孫に美しく育って欲しいと願う。それは、良き人に出会い、一生幸せに暮らして欲しいと言う気持ちの顕れだっただろう。

 振袖は晴れ着である。式服として晴れの場で着られていた。昔は、正月に振袖姿を良く目にした。デパートや銀行などでも正月は女性の店員、行員が振袖で接客する姿もあった。兄弟や親戚、友人の結婚式、お見合いの席でもふりそでの姿があった。

 地方によっては、祖父母の葬式に孫が振袖で参列する慣習が残っている。祖父母を一番きれいな姿で送ってあげたいと言う気持ちなのか、また村人が集まる葬式で「この村にこのような綺麗な娘がいますよ」と紹介する意味もあったと言う。

 そのように振袖は折に触れ着られてきた。成人式もその振袖を着る良い機会だった。成人式は戦後始められたものである。振袖は成人式に相応しい着物ではあるが、決して成人式用の着物ではない。成人式にも着られる晴れ着だったのである。しかし、いつしか「成人式=振袖」「振袖=成人式」になってしまった感がある。何故そのようになってしまったのだろうか。

 日本の新成人人口は減り続けている。平成17年の女性新成人は73万人だったが、平成29年は59万人である。それでも、成人式出席率が60%、振袖着用率を97%とすると、34万3千人の新成人女性が振袖を着用した事になる。確実に34万3千着の振袖が必要になる。34万3千人の若い女性が一時に一斉に振袖を着る。供給する側にとってはこれ程良い商機はない。

 成人式に出席する女性のほとんどが振袖を着る。着る人は特定できる。着る日も特定できる。となれば自ずと商戦も激しくなり商売合戦となる。

 通常、商売合戦となれば、利するのは消費者である。商う者は自ずとより良い商品をより安く消費者に提供しようとするからである。しかし、振袖商戦ではそうはならなかった。

 商戦は、価格の低下を招いた。これは無消費者にとってよい事である。セット販売などで、価格が分りずらかった振袖のセット価格を明確にし、誰でも振袖を着れる様になった。しかし、価格の低下以上に質の低下を招いたように思う。誰もが高価な手描き友禅の振袖を着るわけにはいかず、低価格化に質の低下が伴うのは仕方ないが、品質の割に価格は下がっていない。

 商戦の激化は、価格の低下以上に次のような商法を招いてしまった。

①ノベルティ商法
 振袖購入者に多大のノベルティを付ける事で販売を拡大しようとした。海外旅行や高額な電気製品など、振袖とノベルティのどちらがメインなのか分からない物もあった。

②展示会商法
 展示会に招いて過度な接待をして販売につなげていた。中には、展示会に来た客は逃すまじと、しつこく購入を迫るケースもあった。

④若年齢からの囲い込み
 成人に達するはるか以前からDMを送り見込み客を確保していた。
 配られるDMは、次第に豪華さを増し、豪華なカラー冊子やビデオテープ付もあつた。その経費たるや、振袖代金に上乗せされていることは明らかなのだが。

⑤早期の約定
 振袖販売、レンタルを問わず、成人式の二年前、三年前から約定を採り、浮気できないように代金まで徴収している。早期に約定を採る殺し文句は「早く約定しないと、着付けの良い時間がとれません。」と言うものだった。
 約定は早く採ったものが勝ちである。振袖販売、レンタル業者は、他店がやれば自分の店でもやらざるを得ず、それがエスカレートして二年前、三年前となったのだろう。

 先の「はれの日」の事件で分かったように、早期の約定、代金の支払いは多大のリスクを伴うのである。

 振袖販売、レンタル業者は「はれの日」のような業者ばかりではない。良心的にまじめに販売、レンタルしている業者も沢山ある。しかし、「悪貨は良貨を駆逐する」如く、振袖の商法は次第に上記のような商法をエスカレートさせてきた。

「成人式=振袖」「振袖=成人式」と言う意識は、それを販売する側が強いてきたように思える。受け入れる側は、着物に全く触れていない世代、着物に疎い世代である。「成人式=振袖」「振袖=成人式」の意識を販売する者に叩き込まれ、本来の振袖像は全く見えない状態に置かれてしまっているのではないだろうか。

 レンタルの振袖が増えている。昔は(私が成人式を迎えた時代は)、レンタルの振袖は殆どなかったと思う。結婚式で着るような振袖はあったけれども、成人式用の振袖は聞いたことはなかった。あるいはあったのかもしれないが、極一部だっただろう。

 親は娘に何度も振袖を着てもらうために仕立てていた。できれば孫(娘の娘)にも着てもらいたいという思いも込めていたかもしれない。

 成人式で着られている振袖や紋付の中には、「これが振袖?」「これが紋付?」と思われるようなものがある。明らかに、「成人式以外では着れないだろう。」と思えるものもある。それらは、正に「成人式用衣装」である。愛着をもって何度も着て、子や孫に伝えたいという気になるのだろうか。

 着物を着る人が少なくなり、若い人の振袖に対する関心も次第に薄れてきていた。そこで、業界がやるべきことは、まず日本の振袖のすばらしさを紹介し、振袖本来の意味を広める事ではなかったのか。

 しかし、向かった方向は、如何にして振袖を売るか、如何にして振袖の売上を落とさないか、だった。そしてその先にあったのが成人式だった。

 今、振袖を売る業界の人達が、成人年齢を引き下げる改正法に頭を悩ませている。成人式がなくなれば、あるいは成人式で振袖が不要になれば業界には影響がある。場合によっては、振袖の販売量が激減ということにもなろう。振袖の販売量が減ることは、染屋にも大きな影響があり、業界が疲弊する事を私も憂いている。しかし、そのような状況を創ってしまったのも業界であると言って過言ではない。

「たかが法律」に振り回されるような日本の文化であってはならないと思うのだが、もう遅いのだろうか。

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