明治00年創業 呉服と小物の店 特選呉服 結城屋

全日本きもの研究会 きもの春秋終論

Ⅵ.きものつれづれ 41.「着物を着てください」

きもの春秋終論

 着物の需要が減っている。「需要」と言うのは、ここでは着物の販売量である。業界では減少する着物の販売に歯止めを掛けて「需要」を喚起しようとしてきた。その手法はと言えば、大々的な販売会を催したり、旅行に誘って着物を販売する、度々訪問して販売につなげる等、それらはそれなりに「需要」を促進したと言えるかもしれない。

 しかし、それらは本当に「需要」と言えるのだろうか。それらは「需用」ではなく「販売量」である。

「需要」と「販売量」は同じでない事は明白であるが、通常「販売量」は「需要」とほぼイーブンであることが多い。例えば「歯磨き」の販売量は「需要」に伴った「販売量」である。流通のロスや販売されても何らかの理由で消費されなかった「歯磨き」は必ず存在するが、それらは歩留まりとしての範囲である。「需要」が「販売量」を越える事はなく「需要」は「販売量」をわずかに下回る程度である。

 しかし、呉服業界の場合事情を異にしている。

 着物においても本当の「需要」と言うのは「着物を着る事」である。歯磨きをしなくてはならないから歯磨きを買うのと同じように着物を着なくてはならないから着物を買うのが本当の「着物の需要」である。

 そのような原則に従っていれば、呉服業界でも「需要」と「販売量」の差は僅差であるはずである。しかし、着物の需要がないのに度を越した販売がなされているのが現状である。

 あの手この手で販売を喚起している業者も「需要」即ち消費者が実際に着物を着る事と「販売量」との差に大きな開きがあることを悟っている。つまり、自分たちが販売した着物に消費者が袖を通していない事実は十分に分かって販売しているのである。

「需要」と「販売量」の剥離は将来を見渡せば間違いなく販売量の減につながる。そこで実際の需要(着物を着る)を増やす為に行われているのが「着物パーティ」「着物で〇〇」の類のイベントである。着物を着る機会を増やして「需要」と「販売量」の剥離を減らそうと言う試みである。

 お客様の話を聞けば、「着物を着る機会がなくて・・・」と言う言葉をよく聞く。着物を着る機会を増やすことは良い事であり呉服業界にとっても活性化の要因となり得る。

 しかし、それらのイベントが本当の意味での需要の増加と言えるのかどうか、私には疑問が残る。

 このようなイベントで着物を着るプロセスは、

 着物イベントに誘う → 着物を購入する、または箪笥から着物を出す → 着物のイベントに参加する

 イベントに参加する事によって消費者が着物を着る事に抵抗がなくなり、普段も着物を着るようになる、と言うのであれば意味がある。しかし、そのイベントの為だけに着物を購入する(購入させる)と言うのであれば実際の需要とは言えず、その為に購入した着物が箪笥に眠ってしまうのであれば、益々「需要」と「販売量」の剥離が進むと思われます。

 表題に「着物を着てください」と書きました。着物を着る根源的な動機をもっと広めて頂きたいのです。

 お客様によく「着物を着る機会がなくて」と言う言葉を聞きます。それに応えて業界では着物のイベントに向かう訳ですが、それとは反対方向に、即ち普段に着物を着る環境を啓蒙する事の方が重要と思えます。

「着物を着る機会がなくて」
と言うお客様の言葉に、
「今日お召しに成ってお出でになれば良いんじゃないですか。」
と言うと一応頷かれます。実は着物を着る機会がないのではなく、
「一人では着れない」
「自分だけが着物を着るのが恥ずかしい」
「こんな着物を着たら誰かに何か言われる」
と言った理由がその裏にあるように思われます。

 そう言った着物を着る事に対する不安を一つ一つ解消して差上げる事が着物を着る事に繋がる様に思えます。

 私の店でもお客様には普段着物を着てもらうように話している。そして、
「自分で着て不安だったら店に寄ってください、直して差しあげますから。」

帯の組み合わせに苦慮しているお客様には、
「持って来て見せてください。その場に合わせた組み合わせを考えます。」

 普段着物から遠ざかっている事が着物を着るのを億劫にさせている。着物を着るのはファッションショーに出るのとは違う。仮装行列に出るのではない。着物を着る事が何か特別な事と言う意識をなくしてもらえないだろうか。

 生活の中のちょっとした機会に着物を着ていただければ、もっと着物を身近に感じる事ができるに違いない。

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