明治00年創業 呉服と小物の店 特選呉服 結城屋

全日本きもの研究会 きもの春秋終論

Ⅵ.きものつれづれ 35. きものの産地、京都

きもの春秋終論

 先日、久しぶりに京都に行って来た。目的は仕入れの為である。
「来週、京都に行ってきます。」と言うと、巷の人からは、「いいですね、仕事柄京都に行けて。」と言われるけれども、仕入れは結構きつい。

 今回は、朝7時に山形を出て午前中に東京の問屋を周り、12時の新幹線で京都に向かう。2時半頃から問屋を周った。宿泊は京都ではなく大津である。
 
 近のインバウンドのお陰で京都は人でいっぱいである。市内のホテルを採ろうと思ったが、安価なホテルは見当たらない。一万円以下のホテルはカプセルホテルかその類である。折しも京都は花見のシーズンでホテルは稼ぎ時である。当日予約すれば安く泊まれる、と言う話もあるが、中々そうも行かない。やむなく京都を出て大津のホテルに宿泊した。

 しかし、時代は変わったもので、大津へは京都の地下鉄が乗り入れている。東西線「御池」から僅か二十数分だった。市内中心部で乗って二十数分なので市内のホテルとそう変わらないかもしれない。

 翌日は午前中から問屋の展示場を周って午後4時に新幹線に飛び乗り、東京で乗り換え、山形は午後10時過ぎであった。

 さて、京都は一年振りだった。かつては年に三回程度仕入れの為京都に行っていたが、今は一回である。ご存知の通り、呉服業界は往時の十分の一以下に縮小している。私の店の売上も十分の一にはなっていないが、商売は相当に縮小している。その分仕入れの量も減り、京都詣での回数も減っている。

 山形から京都までの旅費も掛かるので、少量の仕入れでは採算が合わない。そうかと言って大量に仕入れする状況でもない。と言う事で、京都出張を集約して多くの問屋を周ることになるので、益々出張が過密スケジュールになってしまう。

 そのような過密スケジュールになってしまうのは、私ども仕入れる側(呉服屋)だけでなく、売る側(問屋)にもある。

 昔は問屋の数は星の数ほど(と言えるぐらい)あった。室町通りは、上から下まで両側ずらりと大小問屋がひしめいていた。そして、それらの問屋には沢山の商品があった。小さな問屋であっても専門問屋であれば、そこへ行けば大体思った商品が手に入った。

 大手の問屋ともなると、どの階も商品で埋め尽くされ、その問屋一軒で仕入れを済まそうと思えば済ませられるほどだった。

 私の店でも取引している京都の問屋は数多くあった。それらの問屋からは、「京都に来たら是非寄ってください」の声が掛かり、当時は京都に二泊して各問屋を周っていた。今ほどハードスケジュールではなかったので、時には時間を割いて近くの名所を訪れる事もあったが、それも今では良い思い出となってしまった。

 しかし、今の問屋は商品がない。欲しい商品をメモして行くのだけれども、それを探すのが大変である。「若向きの、〇〇柄の××色の訪問着」を探そうものなら、それに該当する訪問着を探すだけでも数件の問屋を周らなければならない。それで見つかれば良いが、見つからない事もしばしばである。

 着物が売れない時代だけに、確実に売れる商品、確実に必要な商品を探すのは、以前に比べて格段に難しくなっている。

 仕入れで京都へは年間一回になってしまったが、東京へは度々上京している。東京にも問屋がありマメに仕入れをして店の商品管理を行っている。
 
 それでは、わざわざ京都に出向く必要もないだろうと思われるかもしれない。しかし、京都に出向かなくてはならない事情がある。

 先に記したように、昔の問屋は商品が豊富だった。何時伺っても目当ての商品があった。呉服問屋は慣例的に毎月初めに売り出しをする。通常、販売員は商品を持って全国に営業するが、月末には商品共に戻って来て月初めの売り出しに備える。月初めの売り出しに行けば豊富な商品に出会えたのである。

 しかし、今の問屋はかつての力はなく商品を持っていない。在庫を抱える余裕がなくっている。従って月初めの売り出しと言えども、商品を求めようとする小売店が満足するような品揃えができていない。

 京都の問屋は、その地の利を生かして年に数度大きな展示会を催す。会場は自社ビルではなく、産業会館や国際会議場と言った広い会場で展示会を行う。その時には自社の商品だけでなく、染屋や織屋の応援を得て品揃えをする。染屋や織屋が自社の商品を持って会場に出向く。その時ばかりは多くの商品に出会う事ができる。

 そんな展示会を狙って京都に出向くのである。そして、多くの染屋さんや織屋さんと直接出会えるので、色々な情報を仕入れる事ができる。

 生産現場の情報はとても有用である。自分が必要とする商品はどこで創っているのか。昔あった商品は今創っているのか、等。しかし、残念ながら彼らの情報の中には、「あの織屋さんはもうやめました。」「それは、もう作ってないと思います。」と言うようなネガティブな返事が多くなってきた。

 自分の店で揃えなければならない商品が、今染められているのか、織られているのかと言う極基本的な情報に神経をとがらせなければならない昨今である。

「きものの産地、京都」は、昔の様に、「着物に関しては、探せば何でも見つかる。」と言った印象は薄れてきた。しかし、それは京都のメーカーが悪いのではない。業界が縮小することによって生じた必然的な結果である。

 これからの着物業界は、私のような零細な呉服屋にとって益々商いが難しくなるかもしれない。しかし、何とか伝統を守り、お客様に良質な着物を届けたいと思う。

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