明治00年創業 呉服と小物の店 特選呉服 結城屋

全日本きもの研究会 きもの春秋終論

Ⅰ 着物の価格形成 ⅵ二重価格と値引き販売

きもの春秋終論

 少し前までインターネットで商品に二重価格を付けて販売しているページが多く見られた。

「標準価格880,000円を176,000円 8割引」と言うように。最近はそう言った表示を見かけなくなったので是正されたのだろう。

 二重価格は昔からバーゲンで使われる値札である。値札に黒字の価格と赤字の価格が記入してある。黒地の価格は正価である。赤字の価格は値引きしたバーゲン価格を表している。誰でも知っていることだが、通常の価格より安く売るときに安さをアピールする値札である。

 消費者は二重価格の値札を見れば、通常よりもいくら安く買えるのかが一目で分かる。より安く買いたいという消費者の心理に答える値札とも言える。

 さて、黒地で記される正価とは、通常の販売価格である。多くの商品は通常価格が定められている。アパレルであれば、メーカーが正価を定める。季節はずれに成ればメーカーの定める価格が黒地で記され、割引した価格が赤字で記される。

 消費者にとってはその商品がどのくらい安いのかを測る指標と成る。しかし、問題は黒字の価格「正価」が果たして正価なのかどうかが問題となる。

 二重価格と類似したものに「値引商法」がある。商品の値引きをして消費者に購買を促す商法である。私の店にいらしたお客様から次のような事を何度か言われたことがある。

「お宅の店では値引きはしないんですか。うちに出入りする呉服屋さんは何も言わなくても半額にしてくれるんです。」

「この前呉服屋さんできものを買ったら帯をサービスしてくれました。」

 いずれも私の店は値引きやサービスをしてくれないので高い買い物だ、という意味である。

 果たしてそうなのだろうか。私の店で全ての商品を半額で販売したとすれば商売はなりたたない。そのような販売方法で成り立つとすれば、黒札「正価」を高くすることである。

 10万円の商品に20万円の札を付けて、「半額に致しましょう。」と言えば商売は成り立つ。

 そんなことができるのだろうか。ここに呉服業界の問題がある。

 着物には「正価」と呼ばれる価格は存在しない。先に述べたように小売価格は各段階での付加価値、マージンの積み重ねである。商品のルートにより小売屋の仕入れ値はバラバラであり、それ以上に小売屋のマージンは自由裁量で決められる。従って、巷で10万円程度で売られているきものに「正価20万円」と付けることは可能である。

 自動車や工場で作られる食品等ほとんどの商品は、正価が明確であり全国共通である。そのような商品であれば「正価」は購買価格の指標となるが、きものの場合黒札の「正価」は消費者にとって指標とは成り得ない。

 消費者の利益を擁護する為には「二重価格や値引販売においては正価を信用してはならない。」と言わざるを得ない。私も呉服業界の中にありながらこのようなことを言わなければ成らないのは業界の恥としか言いようがない。しかし、消費者にきものの価格の正しい認識を持ってもらうことが業界にとって最良のことと思う。

 それでは消費者はどのように振舞ったらよいのか。

 二重価格にしても大幅値引きであっても小幅な値引きであっても、最終的に提示された価格がそのきものの真の価格であると思えば良い。「二重価格」、「正価」に目を曇らせることなく、自分が欲しい商品と最終的に購買する価格を比べてみることである。その価格が妥当であると判断したら購入したらよいし、正価よりいくら値引きされようともその価格が割りに合わないものと思えば購入は見送ったほうが良い。

 正しい判断をする為には、より着物に対する知識を肥やすことが大事であり、それとともに二重価格や妙な付加価値などに耳を貸さないことが大切である。

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