明治00年創業 呉服と小物の店 特選呉服 結城屋

全日本きもの研究会 きもの春秋終論

Ⅰ 着物の価格形成 ⅶ小売店の小売価格に対する感覚の麻痺

きもの春秋終論

 着物の上代、すなわち店頭における着物の価格がどのようにして決まるのか、また決めるのかについて論じてきましたが、上代価格は店によって、販売方法によって大きく異なることが判っていただけたと思います。

 しかし、これまでの話は着物の価格を決める言わば方法論と言えるものですが、実は着物の価格の問題にそれ以上に係わっているのは、表題に挙げた「小売店の小売価格に対する感覚の麻痺」です。

 商売をする者は、自分が売っている商品が他の店に比べて高いのか安いのか気になるところです。

 連休の前日ともなると、大型電気店の巨大なチラシが何枚も新聞に折り込まれる。チラシには小さな文字で事細かに商品の価格が書いてある。私はそれを見るたびにそれぞれの広告企画担当者はさぞ大変だろうと思ってしまう。

 大型電気店の戦いは熾烈を極めている。いかに相手よりも品揃えの良い店を造るかを争い、スクラップアンドビルドを重ねている。消費者にとって最も大きな関心事はその価格である。

 消費者は新聞チラシを見比べながら、自分が欲しい商品はどの店が一番安いのかを探している。チラシに載せられた同じ商品の価格が他店よりも高ければ消費者は他店へと向う。広告企画担当者は他店よりも絶対に高い商品をチラシに載せないように気を使っているのだろう。他店よりも1円でも高ければ、商品が売れないだけでなく、その店のイメージを大きく傷つけてしまう。

 電気店に限らず商売をしている者は少なからず他店の価格を気にしている。「お宅の店は高いですね。」というレッテルを押されまいと。

 しかし、呉服業界ではその感覚は麻痺している。全ての呉服屋という訳ではないけれども、多くの呉服屋は自分の店の上代価格について他店の価格と比べることなどしない。他店の価格を気にしていたならば、これ程上代価格に差が出るはずがない。

 商売とは「どの店よりも良い品を、どの店よりも安く、ジャストタイムに消費者に商品を供給すること」と思っている私には、このような感覚は既に商売の道をはずれているとしか思えない。何故このようなことがまかり通るのか。その原因に次のようなことが挙げられる。

  1. 呉服業界では着物という価値の分かりにくい商品を扱っている。
  2. 呉服業界は年々売上が落ちている。(30年前には2兆円といわれた呉服市場は現在2,000億円を切ったとも言われている。)
  3. 売上の減をカバーする為にあの手この手の商法が行われている。

 以上のような事から、小売の現場では売る為の手法ばかりが先行し、商品とその価格はなおざりにされている。商品の価値は消費者にとって分かりずらい為に価格の設定には気を使うことが無くどんな価格でも平気で付けている。

「小売店の小売価格に対する感覚の麻痺」という現象は、呉服業界にとってさらなる弊害を起こしている。

 価値が分かりずらい商品、上代を自在に設定できる商品ということになると、それを目当てに参入する業者も増えるだろう。売り方さえ工夫すれば、莫大な利益を上げられるともなれば本来呉服には関係のない業者も参入してくる。そして、着物の価値をないがしろにして商売を始められたら、ただでさえ将来の見えない呉服業界の行く末が心配である。

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