明治00年創業 呉服と小物の店 特選呉服 結城屋

全日本きもの研究会 きもの春秋終論

Ⅱ.きものの販売手法 ⅵ無料着付教室

きもの春秋終論

 着物が普及しない原因のひとつに着付けがある。「着物は着るのが難しい」「一人で着物が着れない」と言う言葉をお客様から聞く。着物の着付はそれ程難しいのだろうか。

 昔は日本人皆が着物を着ていた。誰でも一人で着付けができていた。現代の世の中、着物が縁遠くなった為に益々着物が着れなくなっているのだろう。

 特に女性の着物は、お端折りがあったり、帯の太鼓結びなど確かに着付けは難しいだろうと思う。しかし、私の母は着物を着るのに5分と掛からない。それでも着崩れすることなくゆったりと着ている。

 私の女房も始めは1時間も掛かっていたが、最近は10分と掛からずに着ているようだ。

 要は「慣れ」であり、毎日着物を着ていれば自ずと着付けは簡単にできるものらしい。

 それでも最初は人に習わなければ着物を着ることはできない。Tシャツであれば、着たことのない人でも、どこに頭を通してどこに手を通せばよいのかが分かるだろう。まがりなりにも着ることはできる。そういう意味では、やはり着物は簡単ではないかもしれない。

 着物の着方を習うのは、昔は親から教えてもらったのだろう。いや、教えてもらうと言うよりも親の着物の見よう見真似だったかもしれない。

 私が子供の頃、寝るときは寝巻きだった。風呂から上がると寝巻きに腕を通して帯を巻かれていた。なんとなく着物が身についていたし、もしも洋服が無かったら、そのまま着物を着るようになったのだろう。

 今は親の着物姿を見ることがない。偶の結婚式等で親の着物姿を見ることはあっても、親が着物を着るのを見ることはなくなっている。

 今着物を着ようとする人は、全く無垢の状態から着付けを習わなければならない。それも専門に教える人でなければ容易に教えることもできない。昔の親は着付けの先生ではなかったけれども、自分が着物を着る姿を見て育った子供に着付けを教えるのはそう難しいことではなかっただろう。

 今では着付教室がたくさんある。全国的な巨大組織となった着付教室もいくつかある。それぞれの着付教室で免状を発行して多くの生徒を抱えている。それはそれで着物の普及に役立っている。

 着物を着る人がいなければ着物は売れない。その意味で着物を着る人、着れる人が増えてくれることを我々呉服屋は祈っている。

 私の店でも着付けを教えている。着付教室などと大げさなものではなく、着付けを覚えたいというお客様に女房が教えている。

 女房は着付けの免許等ない。ただ自分で何とか着物を着ることができる。そして、毎日着物を着ているだけである。着付け教室というよりも、「一緒に着物の着方を勉強しましょう」というものである。私の店は狭く、店ではできないので、場所を借りたり、またお客様に家に行って着付けを教えている。

 教授料は頂戴していないが、場所を借りる為の場所代や家に伺う際の交通費程度の実費でやっている。お客様には、ほぼ無料でやらせていただいているが、10年位前からだろうか、「無料着付教室」というのを聞くようになった。

 「無料着付教室」とは無料で着付けを教えてくれる処である。従来の着付教室は授業料が結構高かったように思う。学校と言うのはお金がかかるもので、義務教育や高等学校、大学は国あるいは県や市からの補助金で成り立っている。2~300人程度の小学校でも体育館やプールがあり、校長先生始め多くの職員がその運営に携わっている。営利事業としてはとても成り立たない。

 従って、着付け教室はじめ各種学校は多くの補助金を得られず授業料も高くなるのは否めない。

 さて、そんな中にあって「無料着付教室」とはいかなるものであろうか。

 着物を着たいと思う日本の女性は多くいる。まだまだ日本の着物は捨てたものではない。外国人の目には日本の着物がとても華やかに映るらしい。日本人の女性はどんな洋服よりも着物が似合うと思うのは私だけだろうか。

 着物を着れない女性は着付けを習う。自分で着物が着れる様になると着物が着たくなる。そして、着物が欲しくなる。自然の流れである。

 呉服屋で着付けを教えている処は多い。お客様が着付けを覚えてくれれば着物が欲しくなり、着付けを教えてくれた呉服屋で着物を仕立てる。これも自然の流れである。

 呉服屋にとって、お客様に着付けを教えることは商売に繋がる。商売として極当たり前の話であるが、「無料着付教室」といわれるものの中には此れとは違ったものがあるらしい。

 ある消費者が「無料着付教室」で買ったという江戸小紋を持ち込んできたことがあった。価格は20数万円だったという。「無料着付教室」では着付けを無料で教えるだけでなく着物を販売している。

 その江戸小紋は見る人が見ればすぐに分かる捺染の江戸小紋である。通常の小売価格は6~7万円程度だろう。そして、その江戸小紋は先生のような人が、着物の講習会と称して
「これは手で染めた型染めです。」
と言って販売していたという。また、そのような展示会、販売会、講習会は度々行われると言う。

 そのような話を聞くと、私はつい疑ってしまう。前述した「展示会」「消費者セール」などと同じように、あの手この手の商法ではないかと言うことを。

 全ての「無料着付教室」がそうであるとは限らないが、無料で着付けを教えることを餌に消費者を集めているのではないか。そして、売るためだけの目的で商品の価値はないがしろにされていないのか。

 無料で着付けを教えてくれることは業界にとってもありがたいことである。着付けを教えたお客様に着物を買っていただくことも問題はない。しかし、最近の業界の風潮にのり、消費者の判断を狂わせ、ただ売るため(買わせるため)だけの販売に繋がらないことを祈っている。

 「展示会」「消費者セール」「無料着付教室」いずれも消費者にとって有用な面もある。しかし、今の呉服業界では落とし穴があることを自覚し、懸命な対応をしていただくことを消費者に望みたいものである。

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