明治00年創業 呉服と小物の店 特選呉服 結城屋

全日本きもの研究会 きもの春秋終論

Ⅳ きものを取り巻く問題 ⅲ仕立士の後継者

きもの春秋終論

「職人の後継者」「呉服屋の後継者」とくれば、もう一つ心配なのは「仕立士の後継者」である。

 呉服屋は多くの場合、着物を仕立ててお客様に納める、いわば製造販売業者である。仕入れた反物をお客様に買っていただいて、それを仕立てる。稀に自分で仕立てる、あるいは知人に仕立ててもらうので反物だけ買って帰られるお客様もいるが多くは仕立を伴う。

 仕立は仕立士が行う。仕立士は充分に和裁の経験を積んだ人である。昔は中学や高校を卒業した女性が仕立の師匠に付いて和裁を学び一人前の仕立士となっていた。師匠の元に徒弟制の如く沢山の弟子が付いていた。そういった仕立の師匠のところに反物を持ち込んで仕立をしてもらうこともあった。師匠自身が仕立てたり、充分に修行を積んだ生徒に仕立をさせる場合もあった。

 どちらにしても着物の仕立、和裁は熟練を要する仕事である。

 さて、その仕立士が将来どうなるのか、私は心配している。仕立士が減っている、と言っても今のところ私の店では困っていない。困っていないというのは、呉服の需要の減少に伴い仕事が減り、仕立士の減少と歩調を合わせているので困っていないという意味である。

 しかし、それもここ十年位だろう。十年経って私の店の仕立がどうなるのか、考えれば夜も寝られない。

 問題は若い仕立士がいない。私の店でお願いしている人達は皆60歳以上である。以前、30台の手の良い仕立士がいたが、遠くへ嫁に行ってしまった。仕立士がやめると、仲間を紹介してもらって補充しているが、若い人はいない。いないこともないのだろうが、昔のように根気良く修行をしたような人はなかなか見つからない。折角上手な人を見つけても、結婚でやめてしまったり、また昔ほど経済的な欲求がないために仕立をやめてしまう人もいる。

 全国の呉服屋でもさしあたって仕立ができない、と言う声は聞こえてこない。仕立は個人で請け負っている人ばかりではなく、会社組織もあるし、近年は中国やベトナム等海外の仕立も多くなってきている。

 私の店にも仕立の会社が営業に来て、海外仕立を勧めてくる。しかし、仕立会社や海外の仕立にはお願いしていない。

 私は海外の仕立にはお目にかかったことはないが、扱っている人の話によると、

「そう悪くはありませんよ。国内の仕立と区別が付きません。」

と言った声が聞こえる。海外仕立ては中国で行われていたが、最近はベトナムが多いという。中国人もベトナム人も手先は良く効くという。着物の仕立をするのに充分な素地はあるかもしれない。良い仕立てができるかどうかは、指導の仕方や労働の質により、良いものもあれば、安かろう悪かろうの仕立てもあるのだろう。

 どちらの国の人達も賃金を得るという意味では日本人よりも一生懸命に働き、技術を習得するかもしれない。

 しかし、労働のその先にある着物、和装に対する想いというのはどんなものだろう。

 和裁の仕立は非常に繊細な仕事である。私の店では四~五人の仕立士に専属でお願いしている。それぞれの仕立士の技には微妙な違いがある。得て不得手がある。コートの仕立が巧い人、単衣が得意な人、直しや仕立て替え等応用のきく人等など、それぞれがそれぞれの技を持っている。それを考えて仕事を割り当ててゆく。納めた商品に直しが必要だったりした場合は、それを仕立てた人に送って直してもらう。

 しかし、仕立の会社に送った場合、まして海外で仕立てた場合はそういった対応ができない。顔の見える仕立士でなければ和裁の微妙な要求に応えられないのである。

 お客様から漠然とした希望が寄せられた時、仕立士と面と向かって話をして対応を考えるときもある。それもこれも熟練の仕立士のなせる業である。

 自国の文化である着物の仕立を誇りを持ってできる職人、そういった仕立士がどんどん減っている。果たしてこの先どうなるのだろうか。心配である。

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