全日本きもの研究会 きもの春秋終論
Ⅵ.きものつれづれ 24.難解な着物用語その後
私が着物に関するエッセイを書き始めて二十数年になる。最初に書き始めたのは「きもの春秋」である。消費者により正確な着物の知識を伝える事と呉服業界の余りにもねじ曲がった体質を少しでも是正せんがためだった。
その「きもの春秋」に初めて載せたエッセイが「難解な着物用語」であった。内容は、初めて着物に接する人にとって着物の用語はとても複雑かつ難解であり日本的な表現を使う、と言うものだった。
これまでお客様から着物の説明を求められれば、それなりに説明してきた。しかし、最近、私が年を取ったのか、はてまた頑固になったのか、説明が長くなってしまう。
先日、お客様から質問された。
「これは縮緬ですか。」
「そうです。」
「そちらの生地は?」
「それも縮緬です。」
「これとそちらの生地はどう違うのですか。」
「縮緬と言うのは、生糸を束ねた糸に撚りを掛けて・・・・」
縮緬の全体像を理解してもらうには、その製法から説明しなければならない。
「こちらは一越縮緬でシボが低く、こちらは鬼縮緬でシボが目立つんです。」
話はそれで終わらずに、
「縮緬でない生地には羽二重地があって・・・・。」
話は長くなってしまう。
また他のお客様に辻が花模様の小紋を進めていた時、
「これが、辻が花と言う着物ですか。」
そう言われると私は返答に窮してしまう。今目の前にある小紋は「辻が花染」ではない。正確に言えば「辻が花染に良く使われている柄」を小紋にしたものである。「辻が花」を詳しく説明しようとすれば、
「辻が花は戦国時代、安土桃山時代に染められたもので・・・・・、絞り染めですが・・・・一般に辻が花染と思われているのは、久保田一竹と言う染織家が染めたもので・・・・本当の辻が花は・・・・。」
と、延々と続いてしまう。
お客様がどこまでの説明を求めているか分からない。しかし、
「これが、辻が花と言う着物ですか。」
と聞かれて、
「はい、そうです。」
とは言えない。
自分の言葉足らずの説明によって誤解が誤解を生みおかしな方向へ行かないか、心配になってしまうのである。
もとより着物の用語は複雑難解である。それに加えて、最近は初めて着物に触れるお客様もたくさんいらっしゃる。着物の事を、より簡単に説明したいと思うけれども・・・・どうしたら良いのでしょうか。